同時刻、地下の柱でいかにもガラ
の悪い少年が曲を聴いて気持ちよ
さそうに鼻歌を歌たっていた。
すれ違う人達は皆、その少年に
耳ざわりだと言う様に冷たい目を
向けていた。
しかし、少年はそんな事
お構いなしと言うように続けた。
その時、少年の視界にあの柔らかな
サーモンピンクの髪が入った。
人ごみの中でほんの一瞬しか
見えなかった稀菜に
少年は動きを止めた。
「わたげ?」
稀菜を見て少年はそう呟くと
走り出す。
「わたげ、わたげえぇぇ!!」
少年はそう叫んだが、稀菜はもう
どこにもいなかった…。
「わたげ…お前なのか?」
少年は歯を食い縛り、
少し経つと戻って行った……。
稀菜は自分のマンションに着いた。
部屋は303.
エレベーターを使い家の中へ
入ろうと、いつもならすぐに鍵を
開けて入る所だが、
隣の空き部屋の前に、荷物が
置かれているのに気がつく。
誰かが引越して来たのだろうと
思ったが、すぐにその興味も失せ、
家に入っていった。