稀菜は青年と別れ地下鉄に乗る。

地下鉄は混雑し、満員だった。

稀菜はそれに揺られながらある
違和感を感じた。

背後で下半身をいやらしく動く物が
這っていた。

目を向けると後ろには小太りのまだ
少し若い男が立っており、
汗ばむ手を動かし、息が荒く耳元で

ハア、ハアと聞こえ息がかかる。

不快な気持ちになったが、稀菜は
眉間にしわを寄せるだけで

それにまったく抵抗する様子を
見せない。

まるでその男の存在否定をしている
かのように。

男はそんな事も知らずに必死で手を
動かしていた。

その時、

「おい、何やってんだよデブ!」

近くにいた歳の近い少年後ろにいる
男の手を掴み上げた。

「ぼ、僕は何もっ…!」

「嘘つくんじゃねえよ。しっかりこ
の目でその行為を見たぞ!」

小太りな男は必死でそれを否定し、
少年から逃れようとする。

周りの人達は、それに気づき視線を
向ける。

「ち、ちがっ違います、誤解です!」

周りの視線を気にして、男は焦りを
見せる。