「へえ。
田上はなかなかの腕だと聞いたことがある。
部活もしてなかったのに、すごいな」


「中学に入るまで、アメリカに住んでたの。
小学校に入るまでは日本にいたんだけど。
どこにでもバスケットゴールがあって、周りと馴染むためにも、毎日練習した。
スポーツも好きになったし、英語もペラペラになったから、いい経験だった」


幼少のころの話をするのは、桜が初めてだった。

そこまで仲良く話す人は少なかったし、もちろん私から話すこともない。

というわけで、言い終わってから何となく、少々照れる。


「へえ。アメリカか。
1回は見たかったが、無理だな」

会話が噛み合っていないな、と思いながらも、桜の意味深な言葉に疑問を持つ。


「そんな、まだまだじゃない。
無理なんて、桜らしくもない」

まだ私たちは14歳。

未来を断言するには早すぎる年だ。


「いや、まあ、そうだな。
決めつけるのは良くないよな。
でも、無理なことも世の中にはたくさんあるしな」

珍しく自信のない、頼りない声。

「そりゃあ、あるけど・・・・・・。
でも、アメリカに行くくらい、出来るでしょ?」


私は実に一般的な返答をしたと思う。

なのに、桜は黙る。

沈黙は嫌いじゃないし、むしろどちらかと言えば好きなのだが、この沈黙は居心地が悪い。

空気が重いというか、口では表しにくいが、皆何度か経験したことのある気まずい沈黙ではなかろうか。


私は平然を装いながら、さりげなく桜の顔色をうかがう。


ああ、無表情だ。

そして、小さく口笛を吹いている。

全く、困った特技だ。


「そう言えば、あいつ、百合のこと、ちゃん付けで呼んでるんだな」

話をあからさまに変えられたが、敢えてそのことについて触れない。


「ヤキモチ?」

冗談で言った。

しかし、私の冗談は冗談に聞こえないのだった。