「じゃあ、勝負は百合ちゃんが俺から1本入れれたらにしよっか?
制限時間も、台形の三秒ルールもなしでいいね。
長期戦になってもおかしくないし。
まあ、入れさせる気はないけどね」


田上の言葉に、とりあえず頷いた。

まあ、3秒ルールがないのは有り難いが、身長差が15センチはある。

ゴール下での勝負は、あまり期待できない。


「川さん、女子は全然だけど、男子は市でもそれなりのとこまで行くんだよ。
今からでも、まだ引き返せるよ」


「いや、もう無理。
勝負を引き受けた以上、引き返すことはない」


そっか、と俯く美雪に、私はひとつだけお願いをした。

もしも、その人が来れば、私は勝てるかもしれない、と言って。

すると美雪は猛ダッシュで、体育館から駆け出した。


うん、勝てるかもしれない。


男子のキャプテンからボールをもらい、勝負は始まった。

ダムダムというバスケ特有のドリブル音を、ハーフラインからゆっくりつきながら、私はゴールを見つめる。

田上のディフェンスを見て、なかなかだ、と心の中で感嘆の声を上げる。


腰はもちろん低く、膝も曲がっているし、右手はしっかりボールにチェックをかけている。

今はまだボールとの距離があるものの、スリーポイントラインまで行った時には、プレスに近いくらい、あたりが強いことを予測する。


右手でついていたボールを、頭を突き出して守るようにして、左に変える。


何故か利き手ではなく、左の方が得意なのだ。

まあ、それは昔嫌というほど、左ばかり練習させられたからなのだが。


おそらく、田上は私が右利きだから、左の方がどちらかと言えば苦手だ、と考えているはずだ。

練習では右手を特訓するために、左はあまり使わないようにしているから。

だとしたら、もうそこしか突破口はない。


体力に自信がないわけでもないが、男子に勝てるほど並はずれたものはない。


背中を通し、ボールをまた右に持ち変える。

ゴールを見る。

丁度、スリーポイントラインだ。


田上のディフェンスに、私はボールをキープするだけで手いっぱいだった。