あたしたちは東屋にいた。
周りは雨一色だから、人の気配も感じない。
ギュッと、英介くんはあたしを抱いた。
一瞬、離れてしまうのを恐れているような目をした。
――――あたしはどこにもいかないよ。
目を閉じて、英介くんの胸の中で思う一言。
――――英介くんのそばにいるよ。
「――――…君の、全てが愛しい…。」
耳もとでささやかれた。
英介くんの丁寧な息遣いが、あたしの耳に絡まるようにくすぐったい。
――――人の身体って温かいんだね。
…それは英介くんだから?
あたしを大事に思ってくれるという想いを持ってくれているから?
――――…英介くんが少し離れるのがわかった。
でも、どのくらいの間だろう。
ちょうど、あたしたちの間に小さな風が入れるくらい…――――。
あたしは目を閉じていたからわからない。
今はそっと、英介くんの腕に任せようと思ったから…。
あたしと英介くんの間にできた小さな隙間…――――。
あたしは最初、なんのためなのかわからなかった。