美織たちに別れを告げて、俺は美術室に戻った。


やっぱり俺、まだ美織が好きだ。



美術室には、人はいなかった。
部員は大体幽霊部員ばっかりだし、来てても遊んでいてうるさいから、別にいなくたってよかった。


「よいしょと」

机にスケッチブックを広げて、俺は椅子に座った。


シュートを撃ってる龍と、龍を見つめてる美織。
どっちもまだラフだけど、結構うまく描けた気がする。
とりあえず、龍の方から完成させていこうかな。


「よし。」

俺は美術準備室に行き、絵の具を取り出す。
ここにはいろんな国から集めた絵の具があって、美術部員しか使えないっていう決まりがある。
集めたのは、美術部顧問の佐東先生で、先生は暇があればヨーロッパに旅行に行き、いろんな絵の具を買ってくる。
中には不良品みたいなのもあるけど、さすがはヨーロッパ。描きやすいものばっかりだ。
そして、日本ではなかなか見かけない色もあって、俺は少し満足している。


「今日は、これ…」


見た目が豪華な絵の具を取り出す。
箱には、『1996 フランス』と書いてあった。
どうやらフランス製の絵の具らしい。


絵の具をもち、美術室に戻る。
机にはスケッチブックがあり、絵の隅っこに何か書いてあった。


「なんだ…?」


『まだ絵の具は早いぞ』


よく意味がわかんなかった。
絵の具が早い…あぁそっか。
俺まだラフの状態なのに、絵の具選んでたんだ(笑)



きっと佐東先生の字だ。