マタギは今朝見た時より
輪郭がはっきりとしていて、
目尻の下がった
優しそうなおじいさんと
言った感じ。
そして首の長い鳥の背中に
あぐらをかいて座っていた。

幅広の平らなクチバシから
頭部にかけて黒いその鳥は、
きっと国が保護鳥に
指定している雁であろう。

「まったく命を粗末に
扱いおって。
犬が恨みを抱いて
地獄に連れて
いかれそうになるのも
無理ないわ。」

……うん、
しかしあんたが言うな。

私はマタギに
お礼を言うのも忘れ、
床に横たわっている
ハジメさんに駆け寄り
その体を膝と腕で
かかえるように支えた。

……よかった、生きている。

ハジメさんは
気絶しているようで
随分顔色が悪くなっていたが、
なんとか呼吸は
していてくれた。

だけど早くこの列車から
降りないといけないのに
肝心のハジメさんが
これじゃ……。

現世の電車の中に
片足も置きっぱなしに
なっているし
今ごろ大騒ぎに
なっているかもしれない。

しかしふと
ハジメさんの足を見てみると、
何故かその
無くなっていた片足が
元に戻っている事に
気づいた。

「アレ?足が治ってる……」

するとさっきのマタギが
誇らしげな顔で
横から話しかけてくる。

「ああ、
この列車に迷い込んだ
お嬢ちゃん達を捜すために
持ってきたんだよ。
切り取られたとはいえ
霊魂や肉体は引き合う力を
持っているからね。」

そしてしいたげている
雁の頭をポンポンと叩くと、
開いている窓の近くまで
飛んでいく。