列車は緩やかなカーブに入り
レールと車輪のフランジが
ゴリゴリ擦れながら、
後ろの列車を引き連れて
大きく曲がる。

車内の空気は長年のカビと
乾いた木の匂いではなく、
ススや灰が
それを打ち消すように
なっていた。

連結の扉の前方は
もう先頭の機関車で
あったらしく、
窓から外を覗くと
何両も連なった
列車の最後尾に黒い緩急車が
くっ付いてるのが見える。

そしてその上を流れる
一筋の黒煙。

……しまった、
車掌室は後ろだったか。

そう思いながらも
好奇心から
その機関車への扉を
おそるおそる開けてみる。

開けると強い風の音と共に
頭に響く
力強いピストンの音。

先にはシャベルを
持った誰かが、
どうやら石炭や燃料の
カスらしきものを
火室に投げ入れている
ようであった。

顔や体は物陰に隠れていて
手だけがここから
見えるのだけど……
なんだか近寄りがたい。

それは私が人見知りするとか
そう言うのじゃなくて……
ただ見ちゃ
いけないんじゃないかって。

知ってはいけない……
そんな気がするだけ。

私は客車への扉を閉めても
その場に佇んでいた。

すると――