「車掌に挨拶して
おきたいんだが……。
足も片方のこしてきて
しまったし。」

ハジメさんが
そう頼みかけると
その男は指の背で
自分の胸のプレートを
軽く叩く。

プレートには
子供が書いたような字で
『しゃしょう』と
書かれていた。

「オートクルーズです。
おみ足は不便でしょうが
現世に帰れば
元に戻るでしょう。
それと……」

車掌はひとつ間をあけて
言葉を続ける。

「この後ろの車両には
入らないほうがいい。
小窓から見えるでしょう?
あなた達と同様に
あの獣も拾ってしまった。
とりあえずは
この列車の結界で
抑えられてますが、
いつ彼が地獄への道を
開くかわかりません。
相当の怨念が彼を
取り巻いてますから。

さて、私は休まさせて
いただきますよ。
なんせ任期がまだ
一千年近く
残ってるもので。」

そう言い残して車掌は、
獣がいる後方の車両へと移り
座席に腰掛けた。

いつの間にか長椅子は
壁に平行に貼り付けられた
ものではなく、
客車のように
窓と垂直に向かい合って
並べられていて、
車掌の被っている帽子だけが
モダンな椅子の
背もたれ越しに見える。