「さらわれた?
あの化け物にって事?」

「いや……、
多分ちがうと思うけど。
ふむ…。」

なんてハジメさんは
冷静でいるけど
私ははっきり言って
戸惑っていた。

さきほどと
何も変わらない電車。
窓からの景色。
そして私達を残して
誰もいなくなった車内。

……いや、1人。
後方の連結通路の扉の前に
白い手袋をした
運転士風の男が
1人立っていた。

しかしその男
どことなく異様。
なんだか不気味に見える。

手すりを掴んで
自力で立ち上がった
ハジメさんは
つり革をうんていの
ようにして
片足でその運転士のほうに
向かっていく。

私はそれに駆け寄って
肩を貸した。

どうやらあの男が
私達に何かしたのか……?

でもそう考えるのが
妥当だと思う。

男の目の前まで近寄ると
あまりの清涼とした
立ち振る舞いや、
その場だけ凍てついたような
とどこおった空気の流れに
そこにいる男は
やはり人間ではないと
実感した私。

「困りますね。
勝手に乗車されては」

それじゃあ私達の事は
見えていないだろうと
思うくらい目深に
帽子を被っているのに、
私達に向けて
口元に静かに笑みを作る。
いや、怒ってるのかも
しれない。

「……降ろして
もらえないか?
俺らだって好きでコレに
乗ったわけじゃないんだ」

と、なんだか意味深な
会話が始まった。