「いつかあいつがこの世から
いなくなるって時に、
お前の事が気がかりで
成仏できないって
なったらどー思う?
もしくは天国で
ずっと心配されてんだ。」

「…いやだ。」

「男なら女の子を
泣かせちゃいけないよ。
それにみんな通る道さ。」

そう言ってタバコに
火をつけるおじちゃん。

僕が頷くと、
煙を吐きながら
横断歩道を渡りだした。

ただよった煙の残り香が
苦くて懐かしい思い出を
作りあげる。

そして美姫ちゃんが
ハジメのおじちゃんに
連れられて目の前まで
歩いてきた。

彼女は僕を見ながら
僕の手を両手でとる。

感情とは関係なく、
ああ……ものの怪も幽霊も
触る感触は
一緒なんだなって
冷静になれてる僕もいた。

「……僕の姿わかる?」

「わかる。
背がちっこくて
相変わらずね。
ただ……
ちょっと赤いけど。」

「……僕はもう
そっちに戻らない。
2人とお別れするのは
ちょっと寂しいけど
元気でね。」

美姫ちゃんは
おじちゃんからすでに
話を聞いたのか
何も言わずうつむく。
補助信号の『通りゃんせ』が、
ただただむなしく
夕闇に響き渡っていた。

……もう、
行ってしまおう。
喉が苦しくて……
つまりそうだ。

――すると「じゃあ」と、
明らかに震えている
か細い声が、
僕の耳に聞こえてきた。

「来年の七夕……
会いに来てよ。
お盆より早く……
誰よりも早く、
私の所へ……
会いにきなさい。
その時は……私も、
一緒にいってあげるから。」

「わかっ…た。」

ちゃんと言えたか
わからなかったけど、
僕はそのまま
その場から走り出した。

女の子の前で泣くわけには
いかなかったし、
泣かせるのはもっと
嫌だったから。