わたしの町は、川がぐるって、とりかこんでる。
三角形のかっこうに、川がそれぞれ流れていて、わたしたちは川から向こうをまだ知らなかった。

「やよいちゃん、あーそーぼー」

隣家のまあくんと、わたしと、おばあちゃんと、まあくんのお母さんだけが登場する世界。
もちろん、川から向こうにも“世界”はあって、そこに東京タワーとかディズニーランドとかがあるってことも知ってた。
でも、世界は柿の木からこっちのまあくんの家か、わたしの家のことだった。

まあくんは一つ年が上で、小学校にあがる年に引越しして行ってしまった。

わたしの世界は欠けてしまって、キラキラした記憶のまあくんは、柿の木の下で「もういいかい」を言っている後ろ姿だけだ。

わたしは遊び相手を無くし、なにをしつもまあくんを思い出し、本をまあくんに読み聞かせ続けるごっこ遊びに夢中になった。
目の前にまあくんがいなくても、この遊びなら成立した。
家中の本を丸記して、移動図書館絵の絵本もほとんど暗記したころにわたしも小学生になった。

まあくんがいるのかと通った小学校は、わたしの世界を少しだけ広くしたけれど、相変わらず閉じたままだった。