歩き出そうとした瞬間、身体ごと後ろに引っ張られて。

ふわりと頬に柔らかな温もりを感じた。


見上げれば、すぐ傍に紫水の顔がある。


「これはせめてもの仕返し」


そう言って笑う紫水は、いつものイタズラっぽい笑顔ではなく、儚げな笑顔を浮かべていた。


トンッと軽く背中を押されて、二、三歩よろけながら前に進む。

そのまま入り口まで歩いて行った後、一度だけ後ろを振り返った。


柵にもたれかかって外を見下ろす紫水。

クリスマスの街のネオンに照らされた横顔は彫刻のように美しかった。


今日の紫水は本当の紳士だったよ?


再び前を向き、重いドアの向こうに踏み出した。