カチャカチャと食器がぶつかる音の中でほんの少しだけ昔の思い出にトリップしてみた。
キッチンにいる男、山下 透との出会いはもう五年前になる。
高校に入学した時に初めて透を見た。
今は不覚だけど、一目惚れと言うやつだ。
まだ何も知らない無知な私はただただ透を追い掛けて…と言うよりは追い回していたんだ。
追って追って追って……
それでも手が届かなかった。
「ねぇ…」
「あ?」
「眞子は……眞子はちゃんと好きになれたの?」
追って、追い掛けて、追い回して、やっと手が届いたのは一目惚れしてから一年後だったんだ。
違う、ただ隣に居ただけで手が届いたと思っていた私はただの無知で馬鹿な女だった。
「眞子は良い子だから…ちゃんと好きになって付き合った?」
当時の透はどこか冷めた高校生だった。
友達と居ても馬鹿みたいに騒いだり笑ったりなんかしない奴。
それが、今は少しは変わっていてくれたらって願いを込めた言葉だったのかもしれない。