僕は少し拗ねていた。人間を置いて平気でひとり逝ってしまう、自分の満足しか考えていない吸血鬼が、あまりに身勝手だと思ったから。
そんなものに、彼女が憧れているんだということにも。
はぐらかされるのだろうと思ったら、彼女は僕へ向き直り、しゃがみ込んだ。ポケットから取り出したシガチョコのケースを上下に振って、またも器用に一本だけ出す。
依然拗ねている僕に、彼女はわざとらしいくらい、かわいく微笑んでくる。小首まで傾げて。
「要る?」
「要らない」
「あげる」
「要らない」
「あげたいの」
「……なら、もらう」
手は使わず、首を伸ばして口で受け取った。
彼女の片目が、またウインクした。
「これで仲間ね」
「は?」
「知らないの? 吸血鬼に噛まれると、吸血鬼になるって」
「ああ」
基本の設定だ、それくらい。
「だから置いてかないよ」
「あ?」
「吸血鬼のことを愛してくれた人間なら、きっと、すぐに日の光の中に入ってきてくれる。どうなるか、わかるでしょ」