「……僕を置いて?」
「え?」
「吸血鬼は死ぬよ。あっさり、痛みもなく。満足して。でも、そのあと人間は?」
夜を付き合ったのは、人間も同じだ。吸血鬼が満たされたように、人間だってそれなりの充実感はあったんだろう。彼女が言ったとおり、そこに愛があったならなおさら。
「残された人間は悲しむよ。そして恨むよ。自分が満足して死ぬために愛をくださいなんて話なら、人間は吸血鬼に愛想尽かすね」
「……」
唇で力なくシガチョコを咥えたままの彼女が、呆然と僕を見た。何秒か見つめ合っていると、彼女は咥えていたシガチョコを指に挟み、ふーっと息をついた。煙が出るわけでもないのに。ましてや、シガチョコの先に灰が溜まっているはずもないのに、ぴっ、ぴっと空中で弾いてから、また咥える。下を友達でも通ったのか、ひらひらと手まで振る。