「それで、血を吸った吸血鬼はきっと、この上なく満たされてるの。幸せで、充実していて。私はね、その瞬間になら、日の光に当たっていいなと思うわ」
ようやくことの本題が飲み込めて、ハッとした。タバコの代わりにシガチョコを咥えている彼女の横顔を、しげしげと見つめる。
吸血鬼が日光に当たったら、
「死ぬよ?」
自分で、そう言ったじゃないか。
彼女は笑う。ウインクは、今度はなかった。
「灰になって、一瞬でね。きっと痛みも感じずに死ねるわ」
「いいの?」
「なにが?」
「満たされて、充実して、幸せで、それで死んで、君はいいの?」
「憧れるわ」
言い切られて、僕は視線を落とした。自分の足の間、灰色のコンクリートを見つめる。
彼女は、死にたいんだろうか。自分が満足してしまった瞬間に、至高の心地のまま、幕を閉じたいんだろうか。