「前に、後ろに乗ったときも、ちょっと乗るの大変だったよ」

途端にあの時のことを思い出して、また、ふいに息苦しくなった。
秦野くんの広い背中。
力強く進む自転車。
なぜかドキドキが止まらなかった、あの夜。

そのまま、沈黙に包まれる。


――何か言わなくちゃ。

けど、何を言えばいいんだろう。
何から話せばいいんだろう。

「あの、」
「そう言えばさ、」

あ、同時に話しちゃった。
思わず秦野くんの方を見てしまう。

困ったような、照れてるような、秦野くんの笑顔がそこにあった。