「その手じゃ、書けないでしょ。私、代わりに書く」
「え」
ヘンな声で返事をしてしまう。
――だって、そんなつもりでは全然なかったんだけども、って言うか、
そんな、俺のことなんか、気にしてくれなくてもよかった、って言うか、
「秦野くん、いいから、ノート出して」
戸惑っている俺の内心を知ってか知らずか、早口で藤沢は続ける。
「早く、ホームルーム始まっちゃうから」
「いや、あの、」
「私のノート、結構評判いいから。安心して」
もう反論の余地がない。
俺は、片手でカバンから数学のノートを取り出して、藤沢に渡した。
藤沢は俺のノートを手にして、自分の席に戻っていった。
――なんで、今更俺のことなんて。
時々痛みが戻る右手を持て余しながら、俺は上の空で授業を受けていた。