「里緒ちゃん面白く無ーい。」

「もっと楽しませてよ~。」

「これだからだから真面目ちゃんは嫌なんだよね~。」


みんな文句を言いながら理緒をこづいたり、背中を叩いたりする。




文句言うくらいなら触ってんじゃねぇよ!!!


怒りがフツフツと沸いてきたが、先輩もいるので我慢した。









……いや、するつもりだったが…


「ベタベタ汚ねぇ手で触んないでくださいよ。」



目の前で彼女が他の男に触られているのに黙ってるわけにはいかねぇ!!



「俊怖~い。くくっ…

そんなんじゃ嫌われちゃうよ~。」

はっちゃんがマコ先輩にすがり付く。



笑いこらえてんの丸分かりだっつーの…。
はめられた…。

こいつら、俺と理緒の反応見て楽しんでやがる。



でもそういうことなら…、

「嫌われる?
んなわけねぇじゃん。

だって理緒俺のこと好きだもんな?」



そう言って顔を覗き込む。

案の定理緒は抱きついてきていた手を離して俺と距離をおこうとしているが、

俺はそれを阻止するべく理緒に手をまわす。


「えっ、ちょっ…
離して?」

困惑顔の理緒。

「やだ。
だって俺、里緒のこと好きだもん。

理緒も俺のこと好きって言って?」

理緒を抱く手に少し力を入れる。


俺は今までに出したことのないくらい優しい声を出した。

普段は、理緒の前だと余裕が無くなってそっけない態度だったからかなり変な感じがするけど。

手をつなぐときは手汗が気になるし、さっきねノックだって目が合った気がしたら緊張しまくって自滅したし…。
「…………恥ずかしいから…。」


「俺は言ったのに理緒は言ってくれねぇの?」


「それは…………「「「「ストーーーーップ!!!!!」」」」


皆がおれ等の間に入ってきて、引き剥がそうとする。






フッ、勝った。








「何すか~?
今いいとこ何すけど~?」

「うるせぇ!!お前キャラ変わりすぎなんだよ。」

「気持ち悪すぎて鳥肌立ったんだけど…。」

「つーか人前でイチャイチャしてんじゃねぇよ!!」

「俺への嫌味か~!!」


突っ込みは人それぞれだった。


「うるさいっすよ。

元はと言えば皆が俺をいじろうとしたのが悪いんですから。





つーか、マコ先輩どうしたんですか?
顔が怖いですよ?」

「んー、別に~。
大丈夫~。」

間の抜けた返事は普段と同じ。
変な先輩。
俊はかわいいなぁ~。

みんなにからかわれたからってムキになっちゃって。


里緒ちゃんも、真っ赤になって。


すげー幸せそう。







俺には最近悩みがある。

それは、はっちゃんが俺といて楽しいかってこと。


俺は特に目立つわけじゃないし、野球だってみんなの中じゃきっと俺が一番下手。

顔だっていたって普通。

性格も普通かそれ以下だと思う。
だって俺、結構自己中だし。




それに比べて、顔◎性格◎しかも頭も〇なはっちゃんが何で俺なんかと一年も付き合ってくれてんだろうって。



今の俊見たいなことだって恥ずかしくて絶対言えないし。


はぁ…。


「つーか、マコ先輩どうしたんですか?
顔怖いですよ?」
俊の言葉でみんながこっちを振り向く。

はっちゃんもこっちを心配そうな顔で見てくる。

「大丈夫。何でもないよ。」


明るく答えると、みんなまた俊達の話題に戻った。


ふぅ。


普段は心配する側だから、心配されるのは苦手。



「マコセンパイ?」


「うわぁ!?」


いきなり顔を覗かれて後退りをしてしまう。


「はは、逃げなくても~。

それよりセンパイ、今日は練習ここまでだそうです。」

「またサッカー部?」

「いえ、陸上部です。」


陸上部まで…。

うちの野球部は、弱いし人数も少ないからグランドどが使える時間が限られている。

と言うより、他の部活に追い出されるの方が正しいか。
「そっか…。

じゃあ、片付けしようか。


みんな、今日は終わりだって~!」


みんなは少し嫌そうな顔をしたけど、すぐに片付けに入った。


みんな理由も分かってるし、文句言ったってどうにもならないことも知ってる。


あーぁ。

悩んでるときこそ野球したかったんだけどな。


「……尚人くん?」

ん?なんか声が聞こえた気が…?


「あ~、夏來さん!

俺の活躍見てくれた~?」


フェンスの向こうにいる彼女に、尚人が元気よく手を振る。


夏來さんこと清水さんは俺と同じクラス。

おっとりしてて、線が細い感じで野球部で色黒の俺には何か近づきにくい存在だった。

現に、男が苦手らしいけど。
そんな清水さんに惚れた尚人は、毎日2年の教室に来ては席が隣だった俺を介して3人で話してた。

その時はくだらねぇって思ってたけど、結局それのおかげで付き合い始めたんだよな~。


まぁ、それから俺は少しずつ清水さんとも話すようになって、

今では
「夏來さんをとらないでくださいよ~?」

って尚人が言ってくるくらいまで仲良くなった。


「清水さん、久しぶり~。」

「内藤君、こんにちは。

久しぶりだね。

これから何回か練習見に来るんだ。
よろしくね。」


小さいけど、透き通るような綺麗な声。


和むな~…「イッテ!!

なんだよ、尚人!?」


「目の前でイチャイチャされるとムカつくんですけど~?」

本気で怒ってる風ではなく、半笑いで迫ってくる尚人。
「な、な、な、尚人くん?!

私、イチャイチャしてないよ?!

尚人以外とイチャイチャなんかしないもん。」


そう言ってフェンスにしがみつく清水さん。

それを見た尚人は、笑顔で

分かってますって~。

とか言いながら手を握ったりしてる。



これが狙いかよ…。



こいつ、頭は悪いし天然のくせしてこういうところでは、策士になるんだな。


清水さんかわいそーに。









それにしても暑ぃなあ~…。



「ただでさえ暑いのに、やめてよ尚人~。

あ、夏來さんはかわいいんでそのままでいいです。」


そのツッコミは意味分かんないよ、はっちゃん…。




「うるせ~!!

そっちだって熱くなりゃいいじゃんか~。」

少し顔を赤くして尚人が反論する。
「なっ!?

わ、わたし達はし、しないから!!」


「それにさぁ、俊達なんかまだくっついてるんだから向こうの方が熱いくない?」


たしかに。


「しょうがねぇじゃん?
おれ等本当にラブラブだし。

なぁ?」


そう言って里緒ちゃんに顔を近付ける俊。

まぁ、そんな質問に必死になって頭を縦に振りまくる里緒ちゃんもどうかと思うけどね…。


「そこ~、見せ付けないでくださーい。

ったく~。」

そう言ってはっちゃんは部室に入って行った。

俺も着替えようかな~。

普段は着替えずに帰ることもあるけど、今日は汗かいたしね。



「マコ~。

ちょっと来いよ。」


良がニヤニヤしてる。

嫌な予感………。