「ファイト~!!
あと5分~!!」

「「「おう!!!」」」

カーン  カーン  カーン

金属音が規則的に聞こえてくる夕方のグランド。

そこでわたし達12人は毎日汗だくになりながら薄汚れた白い玉を追いかける。

「終了~!!
片付けに移って~。」

グランドに響き渡るくらい大声を出してるのはわたし、渡部晴香[ワタベハルカ]、高校1年生。
わたしは南里高校の野球部のマネージャーをやってる。

いきなりだけど、うちの野球部のメンバーを発表しときます。


打順   名前     あだ名
1[センター]  田中有麻  有麻
2[ファースト] 長谷部良 良ちゃん3[ライト]  村谷一也  カズ
4[セカンド]  中谷俊也  俊
5[ショート]  橋本尚人  尚人
6[サード]  宮村隼人  隼人
7[ピッチャー] 芝崎優太   優 8[キャッチャー] 高村光輝  タカ 9[レフト]  内藤真 マコちゃん補欠   三浦智也    智
マネ   三宅菜々  菜々チンマネ   渡部晴香 はっちゃん

有麻とカズと優と菜々チンは3年生。

良ちゃんと隼人とタカとマコちゃんは2年生。

そして、残りの俊と尚人と智とわたしが1年生。

全員あわせて部員数12人。

みんな毎日頑張ってます。

「はっちゃ~ん!!
水~~~!!

干からびる~~~!」

「大丈夫ですか、有麻センパイ?
お疲れ様です。」

有麻センパイは可愛い系でいっつも部内を癒してくれる。
センパイは背は低いけど足がめちゃくちゃ早くてミートもうまいから打率は常に4割りを越えてる。ちなみに菜々チンセンパイと付き合ってて、周りも認めるラブラブカップル。

なのに何でわたしにドリンク頼むかって?

それはね…

「菜々チンセンパイ、ノックお疲れ様です!!

今日のみんなの調子どうでした?。」

「もぉ、最・悪!!
動きは悪いし、すぐバテるし!!
はっちゃん気付いてたでしょ?」

「まぁまぁ、センパイ。

テスト明けですからねぇ。
なまってますね。」
ウチの野球部は部員数ギリギリで顧問の先生もやる気ないからわたし達マネがノックやブルペンキャッチャーをやらないと練習にならないの。

わたしは野球をやった経験がないからスコアをつけたりボールを拭いたり洗濯したりと雑用をやることが多いけど。


菜々チンセンパイは中学まで男子に交じって正式な野球部員だったらしくて、すごく上手。

小柄で細めなあの体のどこにそんな力があるんだってくらい飛距離を飛ばすし、遠投だって男子並み。

それでも有麻センパイの前では女の子らしく甘えてる。

女からみても可愛い菜々チンセンパイ。

でも、怒ると…、
「ちょっとみんな聞いてんの?!

やる気ないんだったら部活出てこないでよ!!

あたしとはっちゃんは働きぞんになるじゃん!!

たくもー…。」


とぉっても…怖いです…。

部員もみんな気まずそうな顔をしてシュンってちっちゃくなっちゃってる。

こんな場の空気を和ませるのも有麻センパイの役目。

「菜~々チン。
そんなに怒ると可愛い顔が台無しだよ?」

首をかしげながら可愛くなだめるセンパイ。

わたしを含めて周りのみんなもいつもこの可愛い笑顔に和まされる。

ただ一人以外は。

「悪かったわね、可愛くなくて!
有麻のバカ。」

ははは。

みんなが一斉に笑った。
有麻センパイはいっつも自分を犠牲にしてまでこの空気を和ませてくれるとってもいい人なのです。