「平和には犠牲が必要だ。血の歴史を彷徨い、その果てに平和がある。無条件で得られる平和など存在しない……だが貴様の平和は間違っている。
血を流すのは、犠牲になるのは、戦う力を持つ我々だ。力を持たぬ民ではない。
貴様の平和論などただの自己防衛のための愚案だ。犠牲だ痛みだとさぞ崇高そうに囃したてておきながら、自分達は安全地帯でヌクヌクと高見の見物を決め込むとは愚弄の極み。
魔王と渡り合えるほどの力を保有していながら、自身の身可愛さに痛みを他人へ擦り付けている貴様の平和など、所詮メッキで誤魔化した騙しでしかない
現にメッキが剥がれた今、貴様の平和は簡単に崩れ落ちた。戦う意思のない王など害悪でしかないという証明だ」


「ならば君が王になるか? 戦い戦い戦い戦い、このネシオルの大地を血で染め上げようと言うのか?」


「だから貴様は駄目なんだ。自己犠牲の欠片もない自己中心的な老害め。戦いの本質さえも理解していない」


「理解できないのは私の方だよサイ賢者。君はこちら側の人間だ。類稀なる能力を持ち、人類の頂点に立つ人物。
君も少しは感じているのだろう? 人より優れた力を持ち、優越感に浸る気分を。支配する快感を。
下々の出来そこないを、如何に有効的に活用するかが我々の責務だ。なぜ国の発展に使えぬゴミ達の肩を持つ?」


「逆に問おう。余命間もない貴様が、どうやって死者蘇生の喪失魔術を会得し発動させ、今なお魔王を指揮下に置いている?」


イアンの顔色が曇る。


喪失魔術を会得するには、人生を一周しなければならないと言われている。