恐怖による国内情勢の安定化。


だがイアンが企む恐怖政治とは性質が異なる。


魔王という絶対的な恐怖の象徴を、国内では国外に向けたのだ。


―――それはまだ、大国同士の戦いが続いていた頃の話。


ネシオル王国とアモール帝国。長い戦で互いに疲弊していた大国は、一時的に休戦条約を結び安息の時を得ていた。


とはいえこれは一時的なもの。次の戦のための準備期間に過ぎない。


二つの大国のパワーバランスは常にギリギリのラインを保っていた。


海原という壁が一触即発の状況を回避しているが、アモール帝国の発展速度を考えれば、そのバランスもいずれ崩れる。


ネシオル王国とは違い、アモール帝国には巨大な軍事力と近代兵器を保有している。


戦地は二カ国の間にある小さな島国であったが、アモールの新たな海上兵器を使えば、超長距離の航海も可能となる。


一度に大量の兵と兵器を移動させる手段がアモールにはあるが、ネシオルはロクな海上兵器を保有していない。