それでもケイはアグロ曰く臭っさい芝居をして勇者をこの場に留めさせた。


……結構迫真の演技だと思ったんだけど。


口元が自然と上がる。


幼馴染の目は誤魔化せないか。


「彼らに整理する時間を与えたかったんだ」


『整理?』


「嗚呼。四聖官……いや、ネシオル王国が彼らの真の敵だとわかった今、僅かだが彼らに迷いが生まれた。仮にも生まれ故郷だ。愛国心もあるだろうし、そもそも家族や友人、大きく括ればネシオル王国に暮らす民を助けるために彼らは魔王討伐の旅に出たんだ。
魔王を討つということは、間接的とはいえ祖国を裏切る行為になる。まあそれ以前に、信じていた者が最大の敵だったという事実に動揺するなという方が難しいけど」


『迷いを持ったまま戦っても本来の力は出せない。そういうこと?』


「要約するとね。まあ一番の目的は、純血の勇者のサンプルを取りたかっただけなんだけど」


『サンプル?』


電話口から届いた声は、疑問を孕んだ低いものだった。