「事実ではそうかもしれません。ですが、私はあなたにとって母親としてしてあげた事は、一つもありません」

「そうか」

「私は偽ってまで、あなたを求めました。もう、あなたの元には、要られません」

背を向け、歩き出す。

「待て」

僕は渚の腕を掴む。

「木の話は嘘か?」

「嘘ではありません。ですが、もう、彼は帰ってきません」

寂しげな瞳で遠くを見ている。

「他に隠している事は?」

「彼があなたの父親であるという事。それだけです」

「解った」

父親の面影が残っていたからこそ、僕に手をつけたというところか。

しかし、僕は腕を放さない。

「耕一さん、あなたに気持ちの悪い思いをさせてしまいましたね」

「お前が母親として何もしてこなかったというのなら、お前は僕の母親ではない」

「そう、ですね」

「だが、お前は雪坂渚でありラヴィヌスだ。そして、僕のパートナーだ。お前が母親でいるというのなら、母親としての行動を取れ。だが、自分自身の信じた行動は見誤るな」

僕にとって、渚という女は利用価値が高い。

逃すわけにはいかない。

それに、渚を今更母親などという存在として見られないし、見る気もない。

「僕にとって、母親などという肩書きなどどうでもいい」

「私は、耕一さんの傍にいてもいいのですか?」

「好きにしろ」

僕は手を離し、男湯のほうへと入っていく。