「お椀はありますか?」

「ない」

必要がなかったから、買っていない。

「そう、ですか」

渚は困った顔を見せている。

渚の中では鍋から掬って食うわけにもいかないのだろう。

「行くぞ」

「どこに、行くのですか?」

「風呂に入る用意をして付いて来い」

「はい」

僕達は家を出て、銭湯へと向う。

「耕一さん、そちらは銭湯ではないのでは?」

「寄るところがある」

「はい」

不思議な顔をしながら、付いてくる。

銭湯よりは少し遠いが歩いていける距離にある、デパートに辿り着いた。

その中には、百円ショップが設けられている。

「ここって」

「なければ困るのならば、買っておけ」

キョトンとした顔から一点、笑顔になる。

「耕一さん、ありがとうございます」

僕の手を握り、嬉しさを表した。

「呑気にしている暇はない。外にあまり長いはできないからな」

「はい」

デパートの中に入り、お椀とその他もろもろを買い、僕達は銭湯へと向った。