―――――――………
――――――………
「かいちょーっ!!」
後ろから聞こえてくる声にびっくりし、更にスピードをあげた。
……が。
「つかまえたっ!」
後ろから手を掴み、
無理矢理振り向かせられた。
「ちょっ!!」
「会長ひどいよー…。
僕を見た途端に逃げたでしょ」
葵君は口を尖らせながら言う。
「いっ、いえ…」
…だって………。
これ以上あのグループの奴らと関わると、
あたし、気力がなくなっちゃうよ………。
「途中まで一緒に帰ろっ?」
頭を傾げながら可愛い笑顔をする葵君。
「あっ、あの………」
「帰るだけだからっ♪ねっ?」
…………はぁ……。
「…じゃ、校門のところまで…」
あたしがぶつぶつ言うと、葵君はパァーと顔を輝かせ、
「やった♪」
あたしに近づいたと思ったら、頬っぺたに柔らかい感触がした。
ぬっ、ぬおぉーっ!!!
「会長、お肌プルプルだねっ!プリンみたいだねっ!!」
なっ…なに、ごと…。
「…会長、顔真っ赤…。
そのりんご頬っぺ、
マジ萌えるね!」
…………いっ……
「いやあぁぁあ!!」
頭をぶんぶんふりながら、あたしは全力で走った。
――――――――――
sweet蜂蜜男子←葵
――――――――――
「あらら…」
ありえない速度で走って行った会長を見ながら、
ポケットからペロペロキャンディーを取り出した。
「会長、照れてたなぁ~♪」
あぁ~可愛かったなぁ~♪
あっでも。
ちょっとからかいすぎちゃった?
いやいや…でも。
…だって会長可愛いからさ、僕も思わず…だよねっ♪
「うんっ☆だから僕は悪くないっ!
かーえろっ♪」
―――――――………
――――――………
今日は、災難だった…。
家に帰り、
パパが待つリビングへ行く。
「ただいま」
「おぉ姫、おかえり」
あれ?
「パパなんでスーツ?
しかもその気合いの入りすぎた頭どうしたの…」
あたしはソファーに座って、ワックスかなんか知らないけど、
かっちかっちに固まってそうな頭を指差す。
「えっ、これ変か?」
「うん」
変。すごく。
すぐに洗ってきた方がいいと思う。
「えっ!?マジか…。
すぐに洗ってくるっ!あっでももうすぐ客が来る……」
……なにぶつぶつ言ってんだ。
「ただいまー」
玄関を見てみると、靴を並べてるお兄ちゃんが居た。
「あ、お兄ちゃんおかえり」
「うん、ただいま。
って、親父どうしたその頭」
お兄ちゃんはリビングに入ってきて、パパを見て唖然する。
「やっぱり変なのか?」
「「うん」」
「仕方ないか…。すぐ洗ってくるっ」
………どうしたのだろうか。一体。
「…親父、イメチェンしたいのか?
それとも、婚活うまくいかなすぎてちょっと可笑しくなったのか?」
お兄ちゃんは頭を傾げながらあたしに聞く。
「分からないけど…」
実はあたし、ママには会ったことがなくて。
あたしを産んですぐに、亡くなったらしい。
写真で見ると、
凄く美人なんだけどね。
「姫、今日の三つ編みうまくできてるな」
お兄ちゃんは笑いしながらあたしの三つ編みをほどく。
「ありがとうっ」
あたしは笑いながらお兄ちゃんを見る。
うちのお兄ちゃんは、
自分で言うのもなんだけど、凄くカッコいいと思う。
「まだコンタクト入れる気にはなんないか?」
「だっ、だってコンタクト怖いじゃんっ」
あんなものを目に入れるなんて………、
こっ、こわすぎっ…!!
「そか」
お兄ちゃんはあたしにコンタクトとか、女の子らしい洋服をすすめてくる。
だけど、コンタクトは痛そうだし、
洋服はどれも自分には合わない気がする。
お兄ちゃんは可愛いって、言ってくれるけど、
…あたしは分かるよ。
お兄ちゃんは優しいから、そう言ってくれる。
「……うん。うまくウェーブがかかってて、可愛い…」
お兄ちゃんはそう言って、くしゃっと笑った。
お兄ちゃんは、夏輝(なつき)って言って。
あたしたちは双子で産まれてきたの。
「お兄ちゃん夕御飯なにがいい?」
「んー、からあげッ[ピーンポーン]
あれ、お客さん?
「来たのか来たのか!!!」
インターホンの音を聞いて、パパは風呂場から飛んできた。
「えっ?誰が来たの?」
「と、とにかく、姫、ドアを開けに行って!」
「あ…、分かった」
…パパ、様子おかしすぎ……。
「どちら様でしょうか?」
頭を傾げながら玄関のドアを開くと、
「こんにちは、会長」
…あたしは一瞬で、固まった。
………え。
な、なななななんでっ。
「よっ、会長っ」
目の前でスーツを着て並んでる4人を見て、
あたしの思考が止まる。
「こんにちは、姫野お嬢様」
白く髭を伸ばし、まるで執事みたいな人が丁寧にお礼をしてきた。