【‥流騎side‥】
あの女はいつも、むすっとしてる。
必ずなんだかわかんねぇ
ファイルを脇に挟んでる。
ちっちぇ顔とつりあわない
でっけぇメガネかけてる。
スカートなんかもう
足首らへんまでいきそう。
でも…真っ黒な髪はいつも、
…いい匂いしていた。
「どいてください」
…口調のきつい女。
「あ、ごめんね?気付かなかった」
俺はそう言ってドアから離れた。
「………あたしそこまでチビじゃないと思うんですけど」
いや、充分ちびだよ。笑
…でも、こんな女を、
可愛いって、
…思っちゃうんだよなぁ?俺。笑
「あははっ。
身長のこと、気にしてるの?」
俺はいつもの笑顔を浮かべ、
前屈みになって目線を合わせた。
「…うっさい」
顔を真っ赤にして早足で去っていく。
「…クスッ。
…可愛い女」
メガネ、かけない方が絶対いいって。
…女の名前は、姫野綾音。
俺と同じ17で高2。
現生徒会長をつとめている。
ちびめがねちゃん。
俺らの中での、通称名。
「あ、りゅーちゃんまた先駆け。
ずるいよ」
葵(あおい)は苦笑いしながら、
俺の隣に来た。
「別に?先駆けなんてしてないし?」
俺はそう言って、教室の中へ入る。
「咲人聞いてよ~。
りゅーちゃんまた会長に話しかけてたぁ~」
葵に抱きつかれた咲人(さきと)は、
磨いてたグローブを置いて、俺を見た。
「あの女、今日も強烈だな」
と言ってクスッと笑った。
「でも超かわいいじゃん」
俺はそう言って、
誰のだかわかんない椅子に座る。
「僕も思う♪」
葵はそう言って、
ポケットから飴を一つとりだして、
口の中に入れる。
「いつになったら、
僕に振り向いてくれるんだろ……」
ぶつぶつ言ってる葵に、
「や、ちびは俺のだから?」
と、いつものセリフを言う。
…俺の名前は
白崎流騎。
(しらさきりゅうき)
「流騎くん笑って~」
「かっこいい!!」
廊下を通れば、女子らはこの通り。
流騎くん笑って?
はぁ?
なんでお前の言うこときかなきゃいけねぇーんだよ?
かっこいい?
…お前に言われても、
別になんも感じない。
でもほら、
そんなこと言ったら、評価さがるから、
笑ったり
手振ったりするけど…
「しまった」
黙って本を読んでいた要(かなめ)が突然声をあげた。
「どしたの」
「…楽譜、生徒会室に忘れた」
ため息をつきながら、頭を掻く要。
「あ、俺取りに行ってあげよっか」
だって、
この時間帯はちびが居ると思うし。
「りゅーちゃんさぁ、
絶対めがねちゃんが居るからでしょ」
葵は横目で俺を見る。
「悪い?ちび目当てで」
んじゃ行ってくると言って、教室を出た。
なんで生徒会室に楽譜なんて持っていくんだよ、要の奴。
あぁ、
ちなみになんで生徒会室なのかっつーと。
俺、葵、咲人、要は、
委員会やら部活やらで結構大事なこと任されててさ。
俺は文化委員会の委員長。
葵は調理部の部長。
んで、咲人は野球部部長で、
要は吹奏楽部の部長。
うちの学校は月に一度、
部活と委員会の代表を集めて、生徒会と一緒に話しなきゃならない。
活動報告とか、そんな感じだな。
「流騎君!!」
呼ばれたら振りかえる。
そして笑顔で手を振る。
………顔だけを見て判断する女は、
――――嫌いだ。
【‥流騎side・End‥】