いつも棗は気を遣ってくれる。
嬉しいけど…
お父様に嘘をつくと、とてつもなく大きい罪悪感に襲われるんだ………
その罪悪感は好きでもない男に抱かれることより恐ろしく、辛い…………
罪悪感に押しつぶされそうになるくないなら………
「棗、私は大丈夫だから。抱いて……」
「駄目だ。」
「どうして…」
私のこと心配してくれてるのはわかってる……
でも………
私の嘘がお父様にばれたら
怒られるのは棗…………
棗は答えようとしない……
棗は優しいね。
玲よりも
莉緒よりも
ずっと
優しいね………
私は棗が怒られるのは嫌だよ……
だから、せめて………
「棗、キスして……」
棗はそっと私の頬に触れる。
「…バカだな。」
「……知ってるよ。そんなことくらい。」
棗は優しいキスをしてくれた。
「棗…………月が綺麗だね。」
「そうだな………」
今日が満月だったなんて知らなかった。
月を見ると私が凄く醜く、汚れて見える………
太陽をみても同じこと。
私は醜く、汚れてしまったんだ………
「凛、お前は綺麗だ。醜くもねぇ。」
この人は心が読めるのかな……
「ありがとう。」
今の私はこんなどうしようもない感謝の言葉しか言えない。
でも、いつか必ず――ひまわりみたいになるから………
―――…
「……んッッ………ハァ………」
今日は三男莉緒。
「ねぇ、凛……………俺、凛が好きだ……………だから………俺の子供産んでくれよ……………」
「私が誰の子供産むのか……私自身わからない。だから………ごめんね。」
莉緒のことが嫌いなわけじゃない………
玲のことも…………
でも………
この人2人の子供を産みたいとも……
結婚したいとも思わない。
でもいつの間にか………
棗の子供を産みたい…
棗と結婚したい……
そう思うようになっていた。
きっとこんな感情を抱いてはいけない。
自分自身を見失うかもしれないから。
いつか、この家に生まれてきて良かったと思う日がくるかもしれない…
この掟があって良かったと……
祖母や母のように娘を知らない、しかも好きでもない男に平気で………差し出すかもしれない……………
これが普通なのかもしれない。
違う………
これが普通なんだ………
私は綺麗事を言って現実から逃げてる。
そう、私は逃げてるんだ………
ひまわりみたいに一途になりたい――そんなの綺麗事の一部にすぎないんだ……
私は醜い………
私は汚れてる…………
そうやって、自分を自分で傷つけて…………
この家………乙宮家から逃げてたんだ…………
情けない…………
ひまわりみたいになりたい………
ひまわりにはなれない………
違う…………
ひまわりになろうと努力しなかったんだ…………
乙宮家に生まれたから………
それを理由にして………
乙宮家の掟を受けとめようとしなかったんだ………
私は…………
掟を受けとめる。
そして――
棗を一途に想い続ける。
そして――…
ひまわりになる。
「……ん……り……ん……凛!」
「え、あ、何?」
全然聞こえなかった……
「大丈夫か?」
棗は優しすぎるんだよ。
だから抱いてはいけない恋愛感情を持ってしまったんだ。
でも……
棗のおかげでひまわりにちょっと近づけた気がする。
「大丈夫。ありがとう。今日は抱くの?」
流石に今日は抱くだろう……