絶句。
 ジョーの発言は、仙太を擁護するのではなく、彼を陥れるようなものだった。
 もちろん、ジョー本人としては、この場を盛り上げるための演出のつもりなのだが、仙太にとって、これはとんでもない罠としか思えなかった。

「へぇ~、何々!?」

「私も聞きたいわねぇ」

 興味津々の空兎に加え、セレビアもそれに乗っかってきた。
 ジョーは、相変わらずの爽やか笑顔で仙太を促す。

「さ、どうぞ。仙太くん」

(無茶振りだ・・・・・・)

 空兎とセレビアの期待に満ちた眼差しが痛い。
 どうにも逃げ場がないと判断した仙太は意を決して言い放った。

「そ、空を飛ぶ絨毯なんて、じゅうたん(冗談)じゃない・・・・・・」

 直後、仙太は激しく後悔した。
心なしか言い終わった後の沈黙と、全員の視線が痛い。

「・・・・・・せっちん」

 トーンの低い声で、空兎が重苦しい沈黙を破る。そして、徐に背負っているリュックを手に持ち

「そんなんでお笑い界を制せると思うなぁぁっ!!」

 容赦なく、仙太の脳天に叩きつけた。
その衝撃で、仙太は額と鼻を強く絨毯に打ち付けた。幸いにも絨毯、しかも浮いてフワフワしているので痛みは殆んどない。脳天以外は、だが。

「いや、制するつもりは毛頭ない・・・・・・」

 くぐもった声で返す仙太の後ろでは、ジョーが密かに申し訳なさそうに手を合わして詫びていた。

 空兎は「まったく、もう」と文句を垂れながら腕を組むと、ふと何かを思い出し、セレビアの方へと振り返った。

「そういえば、セレビアさん。さっき“本”を盗んだ不届き千万の人、誰か知ってるの?」

 空兎が思い出したのは、“本”を奪った男が逃走する際に、セレビアが知っているような事を口走ったことだ。

「それは・・・・・・・」

 不意な質問に戸惑ってしまったかセレビアは目を泳がせてしまった。
あからさまに不審な様子に、ジョーと、顔を上げた仙太も怪訝な顔をして見つめ始める。
 セレビアは顎に手をやって、三人の様子を伺う。どうにも話をはぐらかす事はできないと感じ、悩みつつも、素直に知っていることを打ち明けることにした。