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 さすがに荒らした張本人が店に戻るのは気まずいのか、セレビアは携帯電話でジョーと連絡を取り、また学校の正門で落ち合うこととなった。

ジョーによると、店の人話をしているので、少し時間が掛かるとのことで、二人は正門に向かいつつそこで待つことにした。

「まっ、仕方ないわね」

 通話を切った携帯電話を折り畳みながら、セレビアは呟いた。横で元凶者たる空兎がセレビアの言葉の意味がわかってないように首を傾げていた。

 そんな彼女に苦笑しながら、ジョーとの会話をかいつまんで説明し、二人は学校の正門へと歩いていった。


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 ゴールデン・ウィーク初日で、家族で旅行するパターンが多いのか、“本”を強奪しに失敗した男が逃げ込んだ公園は、がらんとしていた。

 途中から追ってこないのは気付いていたが、ひと気のない場所にいきたかったので、今の公園のこの状況は、この男にとってはありがたかった。

「やれやれ、さすがにちょいと無理があったか・・・・・・」

 走って乱れた息を整えながら、男は自嘲し、手頃なベンチに腰を降ろした。
 顔を隠すようにして、深々と被っていたファミレスの帽子を取ると、汗だくになった三十代相当の顔が露になった。

 空を仰いで、大きく深呼吸をする。そして、胸ポケットからタバコの箱を取りだして一本くわえると、火を着けずに、唇で上下に弄んだ。

「やっぱ・・・・・・三十越えると、ガクッと体力落ちるわぁ」

 と、一人でぼやきながら、高鳴っている心臓が落ち着くまで、力尽きたボクサーのように、両手を両膝の間にだらしなく垂らした状態を続ける。

 灰山 幸四郎(はいやま こうしろう)。

 三十二歳、独身。只今、禁煙中の無精髭が印象的な男である。

「しっかし、因果なモンだな。あのコンビニにいた、あの娘と、あの少年もいた。しかも、緋上ジョーとセレビア=J=ダルクと一緒に・・・こりゃ、ちょいとおもしろくも、面倒だなぁ」

 あのコンビニ。
 それは以前、白昼に二人組の強盗に遇ったコンビニのことだ。灰山もその場所にいたのだ。

 サングラスをかけた強盗として。