そして風は“本”をセレビアの手へと誘う。

「奪還成功♪」

 得意気な表情をするセレビアに、空兎は立ち上がって、サムズアップを向けた。

「グッジョブ!」

 笑顔で称える空兎に釣られるかのように、セレビアも笑顔になった。
 周囲の人々が、一連の不思議な現象に唖然とした視線を向けていたが、二人は気にしなかった。

 “本”を無事、取り返した所で、空兎は男の方へ向き直り、バシッと指を突きつけながら怒鳴った。

「ちょっと、どういうつもりよ!? アタシをパフェで油断させて、“本”盗むなんて!」

 パフェを注文したのは空兎自身なのだが、生憎と、それを突っ込む人は誰もいなかった。
 男は、深々と被った帽子の中で苦い顔をした。
そして、舌打ちを一つすると、脱兎のごとく、その場から逃走を開始した。

「あ、逃げるな~!」

 追いかけようとする空兎だったが、セレビアに後ろ襟を掴まれ、強制的に静止させられる。

「落ち着きなさい。“本”は取り返したんだから、無駄なことはしないの」

「む~!」

 唇を尖らせる空兎が、あからさまに不満の目をセレビアに向けるが、そのセレビアは走り去っていく男の背中を見つめていた。

「あの男、まさか・・・・・・」

 心当たりがありそうな口振りと同時に目つきが鋭くなる。
 そんな彼女から殺気に近いものを感じた空兎は怪訝な顔をした。

「セレビアさん?」

 そう呼び掛けた語尾と同時に、セレビアは少し早口に告げる。

「二人と合流して、早く“鍵”を探しましょう」

 後ろ襟から手を離し、明らかに焦った様子で、踵を返すセレビアを、少し戸惑いながら、空兎はついていった。