なんとかして記憶を呼び起こそうとするも、その時と今の空兎のギャップの印象が邪魔してどうにも思い出せない。

(・・・・・・まぁ、いいか)

 すぐには思い出せそうにないな、と思い仙太は一先ず諦める。
今は自分の名前をちゃんと伝える方が先だ。

「えっと、甲斐浜 仙太っていいます。このノータリン空兎の従兄です」

「うぐっ! ノータリンと来たか! やるな、せっちん!」

 仙太のささやかな仕返しに、空兎がたじろく。
 そんな二人のやり取りを、ジョーは爽やか笑顔、セレビアはどこか羨ましそうな笑顔を向けていた。

 二人のそんな視線に気づいて気恥ずかしくなったのか、頬をかいて気を取り直した仙太が改めて尋ねた。

「ところで、ここで何してるんですか?・・・・・・というより、何しに来たんですか?」

 若干、仙太の視線が、ジョー寄りだったせいか、まずジョーが答えた。

「いやぁ、僕は空兎ちゃんを助けた後、こちらのセレビアさんに助けてもらって病院に戻ったのですけど、またセレビアさんが『一緒に来て欲しい』と仰られたので、ここにこうしているわけです」

 今朝の出来事の当事者ではない仙太にとっては、一部しか理解できない内容だったが、隣の空兎は実に納得した様子で頷く。

「だからあの時、戻ったらもういなかったのね! 私、てっきり歩く二ノ宮金次郎像がジョーさんを運んで、血のような赤い花を咲かせる桜の木の下に埋めたのかと心配しちゃったよ!」

 どうやら空兎は午前中の授業の間に、ジョーを学校七不思議モドキな怪談の犠牲者に仕立てあげてしまったほどに妄想を繰り広げたらしい。

 ちなみにこの学校には二ノ宮金次郎像も血の色に咲く桜の木もない。

「いやぁ、ご心配をおかけしました」

(いや、そこは怒っていいですよ)

 と、口に出してもジョーには通じそうにないので、仙太は心の中で留めておいて、少々逸れた話を修正する。

「それじゃ、えっと・・・・・・ダルクさんでしたっけ?」

「セレビアでいいわ。坊や」

 色目を使って微笑むセレビアに、仙太は思わずドキリとしてしまった。
 哀しき思春期の男の性である。

「じゃあ、セレビアさん。一体何しにここへ?」