「……空兎、あの女の人、知り合いなの?」

「うん!ほら、今朝話したじゃん!魔法使いと本を賭けた勝負したって!」

(いや、『魔法使い』とか、サラッと言われても……)

 仙太の混乱は大きくなる一方だ。だが、空兎はそんなことはお構いなしに、二人に駆け寄って、ついでにジョーとハイタッチしている。

「ほらぁ、せっちんも早く来なよ!」

 空兎の呼び掛けに、仙太は顔を反らし、

(僕を巻き込むのか君は・・・・・・)

 等と嘆きつつ、流れには逆らえないといった感じに、空兎の隣に歩み寄って、並んで座った。
 向かい側に座っている異質&部外者二人を、仙太はあまり直視できないでいた。

「そういえば、まだ名前言ってなかったわよね?私はセレビア=J=ダルク。よろしくね♪」

「アタシは天羽空兎!んで、こっちは超絶不肖の従兄のせっちん!」

「あだ名で紹介するな! あと超絶不肖も余計だっ!」

「え~、せっちんの方が可愛いじゃ~ん」

「紹介するならちゃんとするのが普通だ・・・・・・」

 口を尖らせる空兎だが、仙太の言い分が正しいと思ったのか、不承不承といった感じで改めて紹介しようとしたがそこで突如、空兎の口が止まる。

「・・・・・・やばっ」

 固まる空兎。仙太は嫌な予感がしつつも尋ねてみた。

「まさか空兎。僕の名前を忘れたなんて言わないよね?」

 その瞬間、バッと仙太から顔を反らす空兎。額から汗が滲み出ているのは仙太の幻覚ではないようだ。

「おーい、くーちゃん。正直に言いなよ~」

 最早、投げ遣り気分の仙太に空兎はバンッと長机を叩き、早口で捲し立てた。

「だって、ずっと『せっちん』って呼んでたんだから忘れるのも仕方ないじゃん!」

(いや、それもどうかと思うが・・・・・・つーか逆ギレするなよ)

 と、文句をつけたかったが、空兎の迫力に圧されて口には出せなかった。そして、ふと思う。

(あれ? そういえば昔からあだ名で呼ばれてたっけ?)

 空兎との昔の記憶は中学一年の時に久しぶりに一日会っただけしか覚えていない。その時も彼女の父親の後ろに隠れて、ビクビクオドオドしていたという印象しか残っていない。