朝のホームルームと一限目が始まるまでの僅かな空き時間に、空兎と仙太は保健室にいた。
怪我している空兎を放っておけない仙太が半ば無理矢理連れ込んだのだ。

 保健医がいなかったので、仙太が代わりに手当てをする事なり、彼が消毒液を彼女の擦り傷に塗る度に滲みる痛みで、空兎はわんわんと喚いた。

「いったぁい! もぅ、せっちんのドS!!」

「訳の分かんないこと言わない」

 消毒液を塗り終えた後は絆創膏を貼ってとりあえずの応急処置は完了させると、空兎は目を潤わせながら絆創膏が貼られている自分の腕や膝小僧を見つめた。

「む~………せっちんにいじめられたぁ」

「だから、訳の分かんないこと言わないの」

 空兎の発言に呆れながら、救急箱を片付けていると、空兎が「あっ!」と叫んで、その救急箱から指に巻くような小さな絆創膏を奪うと、それを赤くなった鼻の上に貼った。

「へへ、『空兎のやんちゃガール仕立て』ってね!」

(『やんちゃ娘』じゃなくて、『やんちゃガール』なんだ・・・・・・)

 なんでそこだけ英語?
と思ったが、無駄に話を広げるのも面倒なので、そのツッコミは心の中に留めておいた。

 代わりに今まで疑問に思っていたことを口にした。

「それで、本当に一体何処で何をしていたんだよ?」

 その質問を待っていましたと言わんばかりに、空兎の顔がニヤッと綻ぶ。

「じゃーん!」

 というお決まりの掛け声と共に、空兎は自分のブレザーとシャツをたくしあげた。仙太は驚きと同時に赤面しながら反射的に目を反らそうとしたが、

「あ・・・・・・」

 空兎のお腹にあるモノを見て、別の驚きをした。

“奇跡の起こし方”

 紛失したと思われ、本日、弁償を覚悟していた“本”がそこにあったからだ。

「み、見つかったのか?」

「まぁね! けど、大変だったんだよ~。この本を欲しがってる魔法使いがいてさぁ、その人と鬼ごっこ勝負して大変だったんだよ!」

「・・・・・・空兎、まだ寝ぼけてる?」

「ミッチリバッチリ起きてるわよ!!」

 プンスカと憤慨する空兎に、仙太は苦笑するしかできなかった。
 その後、自分のプチ冒険譚を語り始めようとする空兎を制して、仙太は彼女を連れて、教室に帰った。