§


 廊下を突き進み、空兎はひた走る。
 擦り傷が痛むが、それを無視して、階段を駆け上る。空兎のクラスである一年三組の教室は二階だ。上りきり、廊下に出ると、担任の萵車の背中が見えた。

「わっ、先生っ!待って!」

 必死に呼び掛けるが、萵車には届いていない様子。空兎はなんとか止まらせようと、あらん限りの声を張った。

「だ、ダルマさんが転んだ!」

 子供の時に遊んで染み付いた習性か、彼女の声の大きさに反応してかは定かではないが、萵車の動きがピタッと止まった。

その隙に空兎は猛然とダッシュ。萵車の横を抜け、教室にスライディングで頭から飛び込んだ。

「せ、セーフ………」

 豪快に入ってきた空兎にクラス中の視線が集まり、彼女は照れ笑いした。
 その照れ顔のすぐ横に萵車の革靴がやって来る。空兎は恐る恐る顔を見上げると、いつもと変わらない強面が自分を見下ろしていた。

「だ、ダメ?」

 ジィっと見つめる空兎に、萵車は出席簿で彼女の頭を軽く叩く。

「次からギリギリになるな。それから廊下は走るな」

 それだけ告げると、強面の教師は、さっさと教壇に立っていった。
 空兎は数秒、呆けたが、すぐに笑顔になって自分の席に着いた。隣の席の仙太は何やら頭痛を感じているようだったが、空兎は全く気にせず早朝の冒険の余韻に浸っていた。

 始業のチャイムが鳴る。
 月曜日の学校は、まだ始まったばかりだ。


   【NO.3 完】