空兎の身体を、一人の男が包み込むように抱き締める。

 お面を被ったヒーロー。

 空兎がその名を口にする前に、その男が自らクッションになり、学校のグランドに激突した。
 痛みは多少緩和されても、もの凄い衝撃に目眩が起きたが、それでも空兎はすぐに起き上がり、自分の身を身体を張って助けてくれたヒーローの名を叫ぶ。

「ジョーさんっ!!」

 頭からドクドクと血を流しながらも、そのヒーローは、落下の衝撃でとれたお面の下の素顔を晒し、そこに持ち前の爽やか笑顔を絶やさずに言った。

「遅刻はダメですよ。僕は平気ですから!」

 頑丈さをアピールするようなピースサイン。空兎は最高の笑顔とサムズアップで返した。

「マジありがとっ!」

 本心からの感謝の気持ちを述べ、校舎内にダッシュした。彼女が視界から消えるまでジョーはピースサインで見送った。

 そんな様子を滞空させた箒で見ていたセレビアは、ため息を吐いた。

「あのヒーロー……箒の毛の部分にしがみついていたのね」

 ささくれ状態になっているそれを見て、セレビアは気付いた。“本”に必死になっていて彼も飛び乗っていた事に気付かなかったようだ。

 もう一度ため息を吐くと、少し優しい微笑を浮かべた。

「ホント、おもしろい娘ね」

 そして、倒れているジョーを見て、もう一つ付け加える。

「変なヒーローね」

 毒づくというよりは、好感触的に呟いた。