「これは何のつもりかしら?」

 すると空兎は「んふふ~」とあからさまに怪しい笑顔を見せたかと思うと、

「うりゃーーーっ!!」

 渾身の力を込めて、こともあろうに“奇跡の起こし方”の本を遠くに向かって高く投げた。
 驚愕しながらセレビアは箒で本を追い掛ける。

 だが、次の瞬間、

「とあーーーっ!」

 軽めの助走から今度は空兎が思いっきりジャンプし、セレビアがまたがっている箒の前に飛び移り、彼女と同じように、箒にまたがった。

 そして宙に放った“本”をキャッチ。首だけセレビアの方へ振り返り、得意顔になった。

「へへーん! どう? 取ってみたら~?」

 挑発的に片手で“本”をヒラヒラ見せ付けると、それを奪おうとセレビアが手を伸ばしたその時、ガクッと箒のバランスが崩れ進行方向が変わるが、なんとか飛行は保っている。

 空兎は、セレビアの手が“本”に届きそうなのを見計らって、手を前の方に伸ばしたり、片方に持ちかえたりして、巧みに翻弄する。

 焦りと苛立ちから、箒のスピードはセレビアの知らないうちに上昇していた。
 吹き飛ばされそうな勢いだが、空兎はなんとかそれに耐えながら下の光景を辛うじて開いている片目で確認する。

 そして―――

「キターーーッ!」

 ある場所を捉えるなり、箒から空中にダイブした。もちろん“本”はしっかりと掴んだままだ。

「!?」

 空兎の行動にセレビアは、声に出すことすらできず目を剥いた。そして下の光景を見て歯噛みする。

 そこは、学校。
 恐らくは、彼女が通う高校であり、この勝負の。

「ゴーーールっ!!」

 己の勝利に歓喜する空兎。ふと、校舎に張りついている巨大時計を見る。

 遅刻約四十秒前。

 これも作戦成功!

 だが───

「ヤバーーーッ!?」

 飛び降りたときの高度が思いの外高すぎたのだ。
 なにせ下に五階立て校舎が見えたのだ。

 普通の人間がパラシュートなしのダイブをして助かる高さでは断じてない。

 そう、普通の人間では・・・・・・