「やったぁ! 逃げ切ったーっ!」

 セレビアが追ってこない様子に、早くも勝利の喜びに浸る空兎。
 だが、その束の間、ふと目に入った町の飾り時計を見てその表情を一変させた。

 始業のチャイムがなるまで、あと三分。

「にゃあぁ~っ!遅刻するぅぅう!!」

 そして、今いる場所もまた見知らぬ住宅街。普通に考えれば完全にアウトだ。
 それでも空兎は諦めが悪い。

「ジョーさんっ! なんかこう、ワープでバビュンってできないっ!?」

 期待に満ち満ちた目で見られ、ジョーはお面の中で困り顔になった。

「残念ながらそれはちょっと・・・・・・あと何分で遅刻なんですか?」

「三分っ!」

「三分ですかぁ・・・・・・何故かヒーローの心震わせる時間ですねぇ」

「アタシは身震いするよっ!あぁ、空でも飛べたらバビュンって・・・・・・」

 と、その時、空兎は表情をまた一変させた。
 今度は何か企む。そう、セレビアがよく見せたような小悪魔的な笑みだ。

「いーこと考えた♪」

 遅刻まであと三分。

 空兎の逆襲が始まる。


§


 全身の運動神経を総動員して、ひたすら前脚と後ろ足で大地を蹴って駈ける。
 今のセレビアは魔法でどこにでもいる黒猫に変身していた。人間の姿よりも格段に速く走れ、なおかつ目立たない。

なにより空兎達に自分だと気付かれることなく近づけるのが最大のポイントだ。

(確かこっちの方に逃げたわね・・・・・・)

 そうして住宅街に差し掛かかり、空兎達を探してみると、彼女の姿は意外にもすぐ見つかった。
 いや、見つからないほうがおかしい。何故なら彼女は、とある民家の屋根の上で仁王立ちをしているのだから。その傍らにはちゃんとジョーもいる。

 まるで見つけてくださいと言わんばかりだ。

(何を企んでるの?)

 とりあえず周囲に人がいないことを確認してから、空兎達からも見えない位置で元の姿に戻り、箒で空兎達の元へ飛んだ。

「やっほー! いやぁ早く来てくれて助かったぁ~」

 セレビアの気配に気付いた空兎が笑顔で迎えるが、セレビアは警戒しながら尋ねた。