転んだ拍子に膝小僧や腕を擦り剥いてしまい、血が滲む。
鼻も打ち、怪我はないが赤くなった。

「もぉっ、最悪~~!」

 ヒリヒリ痛む鼻を押さえながら空兎は追っ手を振り返った。
 カラス・猫の連合集団はすでに追い付き、カラス達は空兎の頭上を飛び交い、カァカァと馬鹿にしているかのように鳴き、猫達は空兎を取り囲むようにして、ニャアニャアと鳴き続ける。

「あーもぅ! うるさぁい!」

 カラスと猫の大合唱に耳を塞ぐ空兎。怪我の痛みと体力の消耗でもう逃げる気力はなくなっていた。

 そのタイミングを見計らっていたかのように、セレビアが空兎の前に姿を現した。
 魔法使いらしく箒に乗って、空から舞い降りてくる。

「ふふっ、降参かしら?」

 すでに勝ち誇った笑みで問い掛けてくるセレビアに、空兎はムッと睨み返して本を胸の中に抱いた。

「渡さないからね!」

 強気に言い放つ空兎だが、足は疲労から微かに痙攣しており、動けないであろうことは見て分かる。

 だからセレビアは箒から優雅に降りると、猫の囲いを抜け、悠然と近づいていった。
スゥと、その手が空兎が掻き抱いている“本”に伸びた、その時。


 ヒュン!


 突風が吹き抜け、それにさらわられたかのように、“本”ごと空兎がセレビアから離れた。

「っ!?」

 あまりにも唐突で、一瞬の出来事にセレビアは息を呑んだ。差し伸べた手から数十メートル先に、空兎はいた。

 一人の男性にお姫様のように抱かれて。
 空兎がその男の名を嬉々として呼んだ。

「ジョーさん!」

「昨日ぶりです」

 突風と共に空兎を救い出したそのヒーローが晴天に似付かわしい笑顔を見せた。入院時の病衣姿という格好だが、空兎はそれすらも格好良いと思った。

 対してセレビアの表情は暗雲が立ちこめる。