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 電話を切った子機を紗恵美に返すなり、ジョーはベッドから降りて立ち上がった。

「ちょっと、緋上さん! まだ動いちゃ駄目ですよ!」

 紗恵美、そして碧衣もジョーの突然の行動に狼狽するが、そんな二人の心配を吹き飛ばすくらいの爽やか笑顔でジョーは告げた。

「大丈夫です。ヒーローですから!」

 二人にピースサインでアピールし、一言「すいません、病院内走ります!」と、一方的に断りをいれて病室を飛び出した。

 すぐに追い掛けようとした二人だが、ジョーはすでに追い付けないくらい距離を離していた。
 
 人や物に衝突した様子がないのがせめてもの幸いだった。


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 空兎はひたすら足を動かすことに全力を注いでいた。

 一歩でも前に!

 一瞬でも早く!

 そのことだけに空兎の神経は注がれている。
もはや自分が何処を走っているのかは分かっていないし、それを考えている余裕はない。
 全ては追っ手から逃れるため。

 その追っ手とは、

 ニャーニャーニャー!
 カァーカァーカァー!

 猫とカラスの連合集団で、何故か一斉に空兎に迫ってきているのだ。
 住宅街の迷路を抜け、歩道橋を渡り、行き止まりにぶち当たったら壁を乗り越え、長い坂道を駆け上がり、何故かまたあの墓場に戻ってしまったりと、空兎の逃走劇は続く。

 その光景をセレビアはスタート地点である廃ビルの屋上で、テレビ画面のように水晶に映し出して眺めている。これも彼女の魔法によるものだ。

 まるでコメディのようなそれにセレビアは笑顔を絶やさない。