せっかく寝癖を直したのにも関わらず、栗色の長い髪を振り乱しながら、空兎は懸命に走る。その後ろ姿を見ながら走っている仙太はふと思った。

(こんなに足早かったんだ・・・・・・)

 従兄弟同士でも住んでいる家が県離れしているため滅多に会う機会はなかった。
 ましてやこうして一緒に走った記憶なんてなかったため、彼女の足の速さに仙太は驚いた。自分の足が遅いほうならまだしも、高校生男子平均以上は速いと自負しているし、実際その通りだ。

 それにも関わらず、空兎の足の速さは仙太より明らかに速い。

(そういえば空兎もまだ部活入ってないな…何か決めてるのかな?)

 もしまだなら是非、陸上部あたりを勧めてみようと、仙太は考えた。
 尤も、当の本人は今、そんなことを考える余裕なぞ微塵もないようだ。

「間に合え~! 間に合え~!」

 そう連呼しながらひたすら足を動している。朝食抜きとは思えない物凄いエネルギッシュだ。

「このペースなら大丈夫だよ……。つーか、すごい必死だな?」

「だってアタシの高校一年の目標は無遅刻無欠席だよ! たった一週間で終わってたまるかぁ!!」

「………」

 悪い目標ではないが、どうにも子供っぽいな、と仙太は内心で苦笑した。

「あの目覚ましがちゃんと鳴ってれば朝ご飯も食べれたのにー! ありえないっ! ありえないっ!! マジありえなーいっ!」

「セットし忘れたんじゃないの?」

 その指摘に空兎は一瞬、言葉を詰まらせたが

「いやっ、それもありえないっ! きっと壊れたのよ! うん、きっとそう! もう、目覚まし機能だけ壊れるなんて、目覚まし時計の風上にもおけないわ! トドメを刺して正解!」

 空兎のその理不尽論を聞いて、「ああ、だから今朝あの目覚まし時計が上から落ちてきたんだな」と、仙太は朝の怪事件の真相を理解した。

「あ〜間に合え〜!奇跡よ起これ〜!」

「奇跡なんて起こらなくても大丈夫だよ……」

 仙太の計算ではすでに遅刻の危機は脱していた。