「ねぇ、せっちん! 賭けない! これ、遅刻しなかったら、アタシの勝ちってことで、せっちんがアタシに売店のパン十個おごるってことで!」

「十個は多いよ。でもま、僕も間に合うほうに賭けるけどね」

「な~にそれ! 賭けになんないじゃん!」

 ぷぅ、と頬を膨らませる空兎を笑いながら、仙太は、空兎のショルダーバックを見やる。

「でもさ、何か僕ら散々冒険しておきながら“神杯”どころか結局、何の宝も手に入れていない。手に入れたのは、“本”の代わりの、この“鍵”だね」

「あはは! せっちんとしては不満足?」

「そうでもないよ。この世界では色んなこと不思議なことがあるってわかった。苦労して付き合った甲斐はあったよ」

「それがせっちんの“宝”?」

「そうになるのかな?」

 言葉が詰まる仙太に、空兎はクスクスと笑う。
 そして、曲がり角に入ったところでインコースを走っていた彼女は一歩、仙太よりも前に出始めた。

 だが、目の前の横断歩道の信号がよりにもよって赤。
 タイムリミットはもうすぐだというのに静止を余儀なくされたが、どこか空兎には余裕が感じられた。

「アタシもね“神杯”じゃないけど、せっちんとは別の“宝”はゲットできたよ!」

「え? 何それ?」

 鈍いなぁ、せっちんは、と内心でからかいながら、空兎は青空に向かって最高の笑顔を魅せつけて、これまでの出会いを振り返えった。


 そして、イタズラと愛らしいさを併せ持った笑顔で仙太に振り返って答える。