「けれど! 最後はちゃんと決めてくれるヒーローじゃないとダメなの! あなたらしく、決めてみなさい!」

 妙に怒るセレビアが、ジョーには可笑しく見えたのか思わずプッと吹き出しすと、セレビアの怒りは、さらにヒートアップする。

「ちょっと、何笑ってんのよ!」

「いえ、何だか今のセレビアさん、空兎ちゃんみたいですよ」

「なっ! あんなバカじゃないわよっ!」

 と、普通ならばここで魔法の一つや二つ見舞ってお仕置きするのがセレビアだが、それはせずどこか不満そうな顔をして重い溜息を吐いた。

「まぁ、いいわ。……それじゃ、私はそろそろ行くから」

 被っていたハットから空飛ぶ箒を出しながら告げるセレビアに、ジョーは「どちらへ?」と言う質問を飲み込んだ。

 彼女の脇に挟んである見覚えのある“本”を見てしまったから、それは愚問だと思ったのだ。

「冒険をしに、ですか?」

 ジョーなりに彼女をエールしたつもりだったが、返ってきた答えは意外なものだった。

「いえ、まずは帰省よ。あの暴走娘につき合わされて、さすがにちょっと疲れたわ」

「え? じゃあ……」

 「何故それがあなたの手元にあるのですか?」
 そう尋ねる前に、セレビアが“本”をジョーに見せ、微笑みながらその疑問に答えた。

「暴走娘からのプレゼントよ」

 その一言と微笑みで、ジョーは何となく察しがついのか、ようやくセレビアが望む、いつもの爽やかな笑顔を浮かべた。

「そうですか……。それでは、お気をつけて、セレビアさん」

「えぇ、またね、ヒーローくん」

 箒に乗って、晴れた青空に向かって飛び去っていくセレビアを、ジョーは見えなくなるまで見送った。


 そして、その青空に通り過ぎる二つの影を見かけると、さらにその笑みを広げた。