8:28。

 平日の朝一番に天羽空兎の瞳に映るのは、デジタル時計が示す絶望的な時間。

「もうっ! だからありえないっ!」

 と、叫びながら窓を開け、そこから新品の目覚まし時計を投げ捨てようとしたその手が不意に止まる。

 そして、大きく深呼吸して昂った心をまずは静めていてく。

(これは……投げちゃダメ)

 これは昨日、叔母である甲斐浜 紗恵美が出張のお土産に買ってきてくれたものなのだから、投げて壊しちゃダメだと自分言い聞かせる。

 あんなに夜遅く傷だらけになって帰ってきた自分たちを、何も訊かずに笑顔で迎えてくれ、ちょっと荒っぽい治療してくれた優しい叔母を悲しませるなんて、空兎にはできない。

 だから空兎は、その時計をそっと枕元に戻した。


 そして……


「せっちん! また一人で学校行こうとしてるでしょおぉぉぉぉぉ!!」

 いつもの調子でドアを蹴破り、階段を駆け下りながら今まさに玄関を出ようとする従兄に向かって怒鳴り散らした。

 その従兄の溜息が当たり前のように漏れる。

「またこのパターンか……。わかったよ、待っててやるから早く準備してきな」

「ホントだよっ! 先に行ったりしたら……」

「蹴る…だろ? ほら、早く」

「うんっ! 了解っす!」

 再び階段を駆け上がる空兎を見て、まだ昨日の疲れが若干残っている仙太は、彼女の凄まじい元気っぷりに素直に感服しつつ自分は、この余った時間を有効活用することを考えた。

「さて、せめて食パンでも焼いておいてやるか」

 食パンをくわえながら走って登校する姿は、漫画などでよくある姿だが、朝食抜きよりかはマシだろうと思い、仙太は台所へと向かった。