入学した高校が近いということで空兎が、この甲斐浜家に居候を始めてから一週間。それまで母親と二人暮しだった仙太の平日の朝は一変した。

 母親の職業は医者で、仙太が朝起きる頃にはすでに出勤している程朝が早い。
朝食は作っておいてくれるので、それを一人で食べて、食器を洗って片付けて学校へ行くというのが中学までの仙太の朝だった。

 空兎が居候してからはその朝が一人から二人でとなり、ついでに騒がしくもなった。

「前に会った時までは、ずっと誰かの後ろに隠れてオドオドしてたのになぁ」

 中学一年頃の記憶を呼び覚まし、今の空兎と比較して思わずため息を漏らす。人間変われば変わるものだがここまで極端だと別人に思えてくる。

「変わったよなぁ……色んな意味で」

 先程、チラッと見えてしまった空兎の上半身の下着姿を思い出し、頬を赤らめていると、階段をドタドタっと駆け降りる音が響いた。

「せっちん~!お待たせ~!」

 完璧な制服姿の空兎が100パーセント笑顔で再登場。

 ちなみに「せっちん」というのは空兎が仙太を呼ぶ際の愛称だが正直、本人は好きではない。今はほぼ死語だが、「トイレ」を彷彿させるからだ。

「それじゃ、行こうか!」

「あれ? 顔真っ赤だよ?? どーしたの?」

「き、気にしたら負けだ!」

 とても脳内の妄想を話せるものではない。空兎は小首を傾げた。

「それより急ぐよ! 走らないとマジ遅刻する!」

 ごまかす仙太が空兎を急かすと、彼女はお腹を空かした子供のように人差し指をくわえた。

「朝ご飯~」

「食べてる余裕なし!」

 空兎の要望を一蹴し玄関に無理矢理引っ張っていく。
 恐らく台所のテーブルでラップを掛けられて置いてあるだろう空兎用の朝食にたっぷり未練を感じつつ、彼女は素直に仙太に引き摺られていく。