「そういやさ、空兎って何か空手とかやってたっけ?」

「ふぇ? なんで?」

「いや、今日のあの蹴り、結構見事だったし・・・・・・。格闘技か何かやってるのかって思ってさ」

 テレビ等で見る格闘家のそれと比べれば荒々しいが、それでもあの髭男に見舞った蹴りは鋭く、様になっているように仙太は感じたのだ。

「あ~・・・別に大したことじゃないよ・・・・・・」

 そう答える空兎の表情も声も、どこか沈んで、歯切れの悪いものだった。
いつもの空兎とは違うその反応に仙太が不審に思ったその矢先、やはりいつもの調子に戻って、

「ほら、見様見真似って奴だよ! 最近、格闘番組、増えてるしさ!」

 と、付け足した。何か触れちゃいけないことに触れたのかと仙太は危惧したが、空兎の笑顔を見て、ひとまず安心した。

 だが、肝心なことを言うために、すぐにその柔和な表情を固くする。

「でも空兎。あんまり無茶しないでくれよ・・・・・・。今日は何とか無事だったけど、次に同じ目にあったら、その時はどうなるか分かんないんだよ?」

「大丈夫だって! 次危ない目にあっても、今度はきっとジョーさんがバビュンとやって来て、バビュンと助けてくれるよ!」

「・・・・・・空兎、あの人の言ってたこと信じてるの?」

「当ったり前じゃん! ジョーさんはヒーローだよ!」

 無垢に笑う空兎に、仙太はどう答えていいか分からず、とりあえず卓袱台に置いてある自分の湯呑みの茶を一気に飲み干した。


 底に溜まっていた茶っぱが妙に苦かった。