数分後、空兎はおとなしくなり、今は仙太の前で正座している。
決め手は、仙太の必殺技「おとなしくしないと、夕飯抜き」の一言だ。

 こうして空兎の制御に成功した仙太は、咳払いを一つして話を再開させた。

「レンタルビデオじゃないんだから延滞料金払っても貸し出し延長はできないの。
 とりあえず明日は僕も事情を話して一緒に謝るよ。それで弁償だけど、空兎、いくら持ってる?」

 そう訊かれ、空兎は額に人差し指を一本当てながら珍妙な面持ちで少し考えた後、自分の部屋へ駆け込み、疾風の如く財布を持って戻ってきた。

 そして中身を一気に床へとぶちまけると、出てきたのは小銭がぶつかり合う一見、景気のいい音。

 だが、現実は。

「・・・・・・合計92円だね」

 あっという間に数え終わった仙太が唖然とする。だが、空兎は不敵に笑いながら、仙太の目の前に二枚の紙を突き出した。

「それだけじゃないよ! 図書券500円と本の20パーセント割引券っ!!」

「・・・・・・まさか本関係なら大丈夫とか本気で思ってないよね?」

「冗談です・・・・・・ごめんなさぃ・・・・・・」

 先ほどまでの元気はどこへやら。急に肩を落とし、項垂れる空兎。
 普段元気があり過ぎる分、仙太は哀れに感じてしまった。

「とりあえず、弁償は僕が立て替えておくよ」

 仙太がそう言うと、空兎はパッと顔を上げた。

「マジすか?」

「・・・・・・言っておくけど、貸しだからね」

「うん、わかってる! ありがと、せっちん!!」

 礼を言うなりいつもの笑顔に戻った空兎が、仙太に抱きついてきた。感謝されるのは嬉しいが、半ばサブミッション気味の痛みを伴うのは仙太としては御免だった。

 程なくして、一階から紗恵美の夕食完成を知らせる声が聞こえてくると、空兎は仙太を容赦なく突き飛ばして、自分だけさっさと行ってしまう。

 残された仙太は、天井が見える仰向け状態で一人呟いた。

「正直、可愛いんだよなぁ・・・・・・」

 直後、そう呟いた自分に気恥ずかしくなり、このモヤモヤした気分を吹き飛ばすかのように、仙太も駆け足気味に部屋を出た。