そして、目を細めて、セレビアはクヲンに挑発的な笑みを向ける。

「ま、一人で来るほど、あなたに度胸があるわけないわよね?」

「まぁな」

 やけにあっさり認めたことにセレビアは少し拍子抜けした。

 だが、クヲンが「けど」と言葉を続けると、セレビアは咄嗟に身構える。

「悪いが、俺はセレビア、あんたとお喋りしにきたわけじゃない」

 クヲンの視線は、最初から一人の少女に向けられていた。

 空兎だった。

 彼女も、それを分かっていた。目に強い輝きを持ち、真っ直ぐクヲンを見据える。

 マリィより、ジョーより、セレビアよりも前に出て、クヲンの前に堂々と立つ。

「それで、俺をここに呼び出して何のようだ?」

 クヲンの口振りは至って冷徹そのものだった。その場にいる誰もが、それが努めてそうしていると分かっていた。

 そんな中、空兎は演じることなく、いつもの自分でクヲンと向き合った。

「んふふふ~♪ 実はね、クヲンくん達と勝負しようと思って!」

「勝負?」

「そ、“本”と“鍵”……ううん、キィを賭けてね」

 その申し出に、クヲンは嘆息した。

「何を言ってんだ? わざわざ手元にあるものを差し出すような真似をするとでも思ってんの?」

 クヲンが冷たく正論を吐いたその時、セレビアが微笑を浮かべて、会話に割って入った。

「もちろん、そちらにも有益がある勝負よ。お仲間から聞いてないかしら? あの“本”の著者が私の師だってこと……」

「まぁな」

「故郷に帰れば、あの“鍵”を使っての“本”の封印解除の方法、なんてものの手掛かりがあるかもしれないわ。そこへ連れて行ってあげる。普通の人間、いえ、あなたのような堕天使くんでも足を踏み入れることのできない領域よ」

「………“魔法使いの森”か」