「とにかくあの“本”は明日、図書室に返却しなきゃならないんだ。多分、失くしたってことになれば、説教でも受けて弁償を・・・・・・」

 そこで仙太は言葉を切ってしまった。
話している途中で、空兎が突如、『打倒!国家権力!!』と、自ら油性マジックで書いたであろうハチマキ作り、それを額に巻き始めたからだ。

「おーい、くーちゃーん、何する気だーい?」

 何となく予想はついているものの、半ば投げ遣りに訊くと、空兎は怒りと闘志に燃えた目でハッキリと一言で答えた。

「殴り込み!」

「・・・・・・どこへ?」

「警察に決まってるじゃん! 相手は巨大組織・・・・・・。明日までに“本”は取り返せないかも知れない! でも必ず取り返してくるから! だから、せっちん、それまで延滞料金よろしく!」

「・・・・・・・・・・・・・・・」

 仙太の脳内に過ぎる壮絶な想像。それから高確率で起こるであろう悲劇的な結末。
 数秒の沈黙後、部屋を飛び出そうとする空兎を、仙太は全力をもって止めに入った。


§


 二階でドタバタする二人を、台所で調理中の紗恵美は微笑みながら鍋をかき回していた。

「もう、二人とも元気なんだから♪ 若いっていいわねぇ」

 そう心の底から嬉しそうに呟いた後、調理中のスープを味見する。

 満足の出来に仕上がったようだ。